自然に寄りそう/3
樹木のサイクルに配慮しつつ



 兵庫県西宮市の我が家の近くに夙(しゅく)川(がわ)という川が流れています。六甲山系に源を持ち、阪神間を流れる川の中では一番緑が豊かで、桜と松の並木が続いています。桜の季節ともなれば花見客でごったがえします。

 この付近では震災前、半世紀以上たつ住まいが数多く見受けられました。我が家も昭和初期に建てられた木造2階建てで、屋根に土をのせた桟瓦ぶきに、荒壁と呼ばれる土壁、焼き杉板張りでした。東隣にあった妻の母の住まいを含め、周辺の同じような住まいのほとんどが、震災によって全壊してしまいました。10年がたった今、この辺りはハウスメーカーの住宅展示場のような光景です。

 我が家は96年12月に、母の住まいはその1年後に再建することができました。我が家で試みた事の多くは母の住まいでも取り入れましたが、大きな違いは構造材や仕上げ材のすべてに国産の無垢(むく)の木材を使用したことです。ちょうど母の住まいを設計している時期に、奈良県の住宅産業関連の事業者グループが、震災で住まいを失った人々を対象に、構造材を10棟分提供するという話がありました。応募したところ、母の住まいがそのうちの1棟に選ばれたのです。

 木造2階建ての床面積90平方メートルの住まいですが、1階の60平方メートルの広さで、母ひとりが十分生活できるようにし、2階の30平方メートルは客間と納戸になっています。吉野杉を構造材・仕上げ材に使い、壁は昔ながらに竹小舞を編んだ荒壁に漆喰(しっくい)仕上げとし、可能な限り自然の素材を使いました??写真。

 この母の住まいを契機に、私は近畿圏の林業の地域を見てまわるようになり、それらの木材を使った住まいを設計する機会が増えたのです。そこから見えてきたことは、経済的理由から輸入材に押され、ますます手入れされずに放置され、森林の保全がなされていない林業地域の状況でした。安い輸入材を使用したとしてもやはり住まいをつくることはかなりの経済的な負担です。

 それに現在のように世代ごとに住まいをつくるという状況は地球環境への負荷も相当なものではないでしょうか。樹木の育つサイクルに配慮しながら、3世代から4世代にわたって住み続けられる住まいづくりこそ、いま最も重要であり、持続可能な地球環境の形成につながっていくのではないかと考えています。

 毎日、朝と夕方の2回、愛犬を連れて夙川を散歩します。川の流れてくる方向、川が流れていく方向を眺めながら、地域とのつながりに目を向けていこうと思いをめぐらせています。

=建築家、中北幸
                     関連作品へ

top
back
next