自然に寄りそう/4
建材の乾燥だけで2年半かけ
兵庫県の中部、鳥取との県境に波賀(はが)町(4月から宍粟市)という町があります。主な産業は林業と農業です。その町に住む方からご自宅の設計の依頼があり、約3年半の歳月をかけて完成させたことがあります。
街の中では、これほどの時間をかけて住まいを作ることはまれです。私は割と時間をかける方ですが、それでも設計に1年、工事に半年くらいが目安です。その期間の長さに驚かれる方も少なくありません。住宅展示場のようにパターン化されたモデルの中から選択して建てるわけにはいかず、全く白紙の状態から建築主の求める住まいを描いていきますので、建築主とのやりとりを何回ともなく重ねていくうちに、あっという間に1年が過ぎてしまうのです。
数世代前から建築主の一家が守り育ててきた欅(けやき)の大木は、長さ7メートル、断面33センチ角の大黒柱及び玄関の上框(かまち)材用に製材することになりました。また、樹齢200年を超える杉が何本か伐採されている地元の現場=写真=では、これらの杉の地面から遠い部材を、比較的安くわけてもらうことができ、外壁などに張る板材としました。
流通している一般的な木材を使うのと違い、伐採した山で乾燥、使用する寸法に整え、再び乾燥という工程が採られ、自然に任せる乾燥方法で行いました。人工的に乾燥させる方法もいくつかあり、時間を短縮することはできますが、費用がかさみます。乾燥といっても、構造材として使用する木材はその度合い(含水率)が特に重要です。適切な水分にするかしないかで木材の持つ強度はかなり違ってきます。初めて山に行ってから乾燥までで約2年半を要しました。
波賀町では、素材が人と自然の力によって育てあげられ、住まいの一部になっていくさまを建築主と共有することができました。住まいを形づくっていく素材のなりたちについて深く考えさせられた体験でした。
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