自然に寄りそう/9
リフォームには、まず耐震補強



 今回は築20年の一戸建ての住まいの例を少し紹介したいと思います。ここ数年依頼が増えているリフォームについてです。場所は大阪市東住吉区で、長屋と呼ばれる2戸以上が連続した町家が今もかなり見受けられる地域です。

 今回の住まいは元長屋であったのを20年前に隣の長屋から切り離して解体し建て替えた住宅を、数年前に購入し住まわれていました。

 当初相談に来られた時、建築主はリフォームか建て替えか迷っておられました。敷地面積は54平方メートルで木造2階建ての延べ床面積は72平方メートルでした。3階建てに建て替えれば床面積を増やすことは可能ですが、法規制上、隣の長屋から離して建てる必要があるため建物の間口は当初より狭くなってしまいます。

 隣地境界線からの後退距離を考慮すると、3メートル20センチしかない建物の間口が、建て替えで2メートル70センチ以下になってしまうのです。住めないことはないのですが、それぞれの工事費、施工時間なども比較した結果、リフォームという方向に決まりました。

 家族構成は夫婦、小学生の子ども2人の計4人です。奥さんには手作りの小物類やアクセサリーを置いたり、お茶と菓子を出す店をしたい夢がありました。ちょうど、大阪市内の古くからの商店街などで長屋をリフォームした店舗や住宅などが注目され始めていました。建築主も私もいろんなリフォーム例を見に行きながら設計の打ち合わせを進めていきました。

 その際、私が優先した第1番目が耐震補強。そして2番目は自然の恵みの感じられる住まいにすることでした。屋根は構造耐力を高めた新たな屋根に変更され、勾配(こうばい)を急にすることで冬の太陽熱を効率よく吸収し温風を作り暖房に使用しました。

 同時に屋根裏は子どもたちの部屋に生まれ変わりました。新しい基礎が、入れ子のように作られ、構造補強だけでなく太陽熱の蓄熱体としての役割も果たしています。構造補強と自然の恵みを取り込むことを組み合わせたリフォームです。

 第1の点について打ち合わせ段階では、震災を身をもって経験した私と、被害の少なかった大阪市におられた建築主とではかなり温度差もありました。結局、構造補強を重視し、かなりの金額をさいていただいたので、その分建築主の夢のいくつかが犠牲にもなりました。

 でも、引っ越しの時、「ここからまた少しずつ新しい夢をはぐくんでいきたい」という奥さんの言葉と笑顔がとても印象的でした。

=建築家・中北幸、イラストも                関連作品へ



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