自然に寄りそう/10
耐震改修には制度が不十分
前回に続いて今回も戸建てのリフォームについて紹介します。違う点は耐震補強を目的とし、住みながらの改修工事ということです。
住まいは兵庫県西宮市にある延べ床面積100平方メートルの木造2階建て。95年の震災の時、倒壊はしませんでしたが、向かいの家が道路を越えて倒れかかり、1階の道路側が損傷したとのことでした。その改修の際、屋根材を瓦から軽い建材にふきかえられていました。あれからさらに10年が経過。再び大地震が発生する可能性を考えると、このままでは不安と、今回の耐震補強工事となりました。現在、工事の最中で、7月末には完成の予定です。
着工にいたるには、まず第一に現状の住まいの耐震性能を把握し、倒壊の可能性を評価する必要があります。耐震診断といわれているもので、国交省監修の「木造住宅の耐震診断と補強方法」に基づいて現状を調査し、安全性を数値化します。その数値を総合評点といい、1・0以上が目安です。
次の段階で、その診断結果から弱点となる個所の構造性能を向上させる補強計画を立て、構造計算によって安全性の検証を行いながら評点1・0以上になるよう設計図を作っていきます。最後にその図面に基づいて工事費を算出、建築主の予算と調整がつけば着工ということになります。
今回の住まいの場合は評点0・73でした。最終的に評点1・0、1・25、1・5の三つの補強設計案を作り、それぞれの工事費を参考に建築主と打ち合わせをした結果、評点1・25の設計案に決まり、着工となりました。
耐震改修を促進するために自治体の補助制度もあり、評点1・0未満の木造住宅が要件です。しかしながら、もう一つ昭和56(81)年5月31日以前に着工という条件があるため、同61(86)年築造の今回の住まいは、補助を受けることができませんでした。この2番目の条件には少なからず不満に思っています。56年に耐震基準が改正されたことが背景にあるのですが、木造住宅については大きな改正がされたわけではありません。私は耐震診断に基づくことが何より重要と考えています。
住まいにとって自然がもたらすのは恵みだけでなく、大地震などの脅威もあります。耐震補強を目的としたリフォーム例はまだまだ少ないと思われますが、自然の脅威に対しどう寄りそっていくのかということを考えさせられた体験でした。
=建築家・中北幸、イラストも