自然に寄りそう/7
露台、吹き抜けで天空につながる気分



 私の住む兵庫県西宮市は大阪市と神戸市の間に位置し、ちょうど都心に近い住宅地としての街です。こうした場所では、総予算の中で大きな割合を占める土地の価格が比較的高いため、十分な広さの敷地が手に入ることはほとんどありません。かつてのように大家族で住むことが少なくなり、それほど広い敷地が必要ない場合が増えていますが、その一方で、親と同居する、あるいは将来に備え、あらかじめ対応しておきたいというニーズも少なくありません。

 そんな2世帯住宅の住まいを、西宮市の「五月ケ丘」という少し丘になった所で設計したことがあります。敷地から購入してということで予算上、敷地の広さは90平方メートル。同じような広さに建つ住宅が比較的多い場所です。周辺は2、3階建ての戸建てや、4、5階建ての集合住宅の住まいが混在しています。建築主の家族構成は夫婦と、大学生の息子2人、夫の母親の計5人と、犬1匹です。

 私自身も妻の母と隣り合わせの家で暮らしていますが、高齢社会となった現在、介護の問題も含めて、どのように住まいの設計に反映していけばいいのか、正直いって雲をつかむようなところがあります。設計者としては住まいという物を通じて、どうしたら住み手の心を癒やし豊かにしていけるのかと思いながら設計図とにらめっこしているわけです。

 私の場合、その手掛かりとなるのは、住まいの中にいかに自然をとり込んでくるかということです。それは、以前このコラムで書いたように、震災によって傷ついた私たち家族の心が、仮設住宅で身近に自然と触れ合うことで、癒やされ生かされたという生活体験があるからです。

 五月ケ丘の住まいは3階建てで、最も日当たりがよく見晴らしのいい3階に家族の生活の中心となる居間・食堂・台所を設けました。将来必要になればホームエレベーターを設置出来るようにスペースを確保してあります。夫婦と母親の寝室は2階、息子たちの寝室は3階上部のロフトです。1階は玄関及び車3台のガレージです。

 特徴は、屋根に露台(ろだい)(バルコニー)を設けたことです=イラスト。家族の生活の中心である3階から吹き抜けを介してロフト、そして露台へと、内部の空間が無限の天空へとつながっていく住まいをつくろうとしたのです。

=建築家・中北幸、イラストも                関連作品へ

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