自然に寄りそう/6
どこにいても落ち着く不思議な家



 前回のコラムで敷地13・5坪(約45平方メートル)に建つ小さな住まいの話を紹介しましたが、今回はさらに小さな敷地での住まいです。 この住まいは敷地の購入の段階から相談を受けました。「10坪の土地が売りに出されているのですが、どうでしょうか」と。

 都心であればそれほど珍しくもない広さなのですが、聞けば阪神間の六甲山麓(さんろく)に位置する閑静な住宅街。しかも、建ぺい率が50%のため実際には5坪しか建てられず、3階も日影規制上、無理という敷地条件でした。

 そこには隣の敷地の離れとして床面積5坪の平屋がすでに存在していましたが、この平屋の間取り(6畳の和室と台所・便所)を見ると、そのままで買う人はめったにいないと思われましたし、建て替えには前述の法規制があります。 売る方も売る方ですが買う方も買う方で、双方かなりの思いがないと成立しない物件です。「この辺でこんな物件は後にも先にもまず出ない」とは仲介した不動産屋さん。それでも、相談を受けてから数カ月後には設計を始めました。

 家族構成は人間1人プラス犬1匹でしたが、将来的にはもう1人増える可能性もあるとのことでした。仕事上どうしても車を置く場所が必要でしたので、1階は車のスペースと玄関・階段で占められてしまいます。必然的に2階とその小屋裏を含めた5坪の空間に、居間や寝室、水回りといった機能をレイアウトすることになります。最終的なプランになるまでにはさまざまな案が検討されました。

 ちょうどそのころ、前述の敷地13・5坪の住まいが着工したばかりでしたし、私の仕事場が6坪の広さです。空間の広さは頭の中だけではなく、体全体で考え設計できたように思います。5坪という広さの中に自然を感じる生活空間をまとめていくのは、私としては願ってもない体験で、非常に楽しい時を過ごしたことが思い出されます。

 実現したプランは奇抜なものではありません。どこにいても、この空間の広さを体感できるもので、全体が居間であるように感じる一方、浴槽につかれば5坪の浴室空間となり、流し台の前に立てば5坪の台所を見渡すことができます。

 完成後、2年と少しになりますが、建築主の言葉を借りると「どこにいても落ち着く不思議な家」とのことです。 間仕切りがなく、住まいの中のどこにいても、一日の光の動きなど自然の移ろいを感じとることができるのが、この住まいの良さではないかと思います。

=建築家、中北幸                      関連作品へ
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