自然に寄りそう/5
光や風を導く空間を設える
敷地の大きさや周辺の状況は、設計していく上での条件の中では最も重要な部分です。狭小な敷地で、家がかなり建て込んでいる場所では、プライバシーを守りながら住まいの中に自然を取り込むにはいろいろと工夫を重ねる必要があります。とてもやりがいのある楽しい仕事です。
京都、奈良、大阪の過密な場所には町家と呼ばれる住まいが今も使われています。それらは高温多湿な日本の風土を生きながらえて来ました。狭小で過密な場所に自然を取り込んだ現代の住まいを設計していく時、町家は実証済みの例として採り上げることのできる住まいだと言えます。
今回紹介する住まいは神戸市灘区のJR六甲道駅の北西にあります。阪神・淡路大震災でこの地域一帯は火事となり壊滅的な被害を受けました。建築主にとっては住み慣れた地域とはいえ、震災前の敷地は区画整理によって公園となり、換地先での住まいの再建でした。もともと50平方メートル前後の小さな敷地が多く存在していた地域で、それらは道路の拡張や公園の整備をする区画整理によって、さらに小さくなりました。今回の住まいの敷地面積は45平方メートル(13・5坪)です。建ぺい率が60%ですので1階の床面積は27平方メートル(8坪)です。この広さは、被災地の仮設住宅の広さとほとんど変わりません。
地震という自然の猛威によって一瞬にして住み慣れた住まいを失った建築主ですが、小さくても自然の恵みが感じられる住まいを、という要望でした。敷地は東側で幅員6メートルの道路に接し、後の3方は宅地です。
道路面からの採光は午前中しか期待できません。一日を通じて自然光を採り入れ、風通しを保つには工夫が必要です。伝統的な住まいのひとつである町家には通り庭や坪庭と呼ばれる、自然の光や風を採り入れる空間が設(しつら)えてあります。
今回の住まい=イラスト=では、アプローチから光庭(中庭)、玄関ポーチに至る空間がそれらに相当します。さらに階段を光庭横の南側に配置しています。階段は上下階を結ぶ吹き抜けの空間であり、光や風を導く空間でもあるのです。2階の南側には天窓のあるウインターガーデン(サンルーム)を2カ所設けました。光庭、階段、ガーデンなど、立体的に配置を考えることで、1階まで十分な自然光を採り入れたうえ、横だけでなく縦の空気の流れを考えた風通しが可能になります。
町家の中にある知恵と現代的な工夫を重ねることによって、小さくても自然を感じることのできる住まいができるのではないかと思います。
=建築家・中北幸、イラストも 関連作品へ