自然に寄りそう/2
快適・便利・手間なしだけでなく



 私はこの数カ月間、数件の住まいの見積もり調整に追われています。いつものことですが、建主の予算を大幅に超えた見積もりになるのです。

思い返してみると、地震で倒壊した我が家を再建する時もそうでした。私たちの予算のおおむね倍の見積もりが工務店から提示されたのでした。当時は多くの住まいが建て替えられていた時期でもあり、職人や建材の不足などによる工事費の高騰という状況があったことは事実なのですが、やはりそういう状況でなくとも住まいに対する思いと用意できる工事予算との釣り合いはいつもバランスを欠いているように思います。我が家の再建時の事を妻は次のように書きとめています。

 「見積もりと予算との調整に悪戦苦闘しています。でも私たちなりに何が大切なのか、優先すべきことは何なのか……をじっくり見すえて、これは要らない、これも要らない、と図面とにらめっこしながらマイナスの思考を進めています。でもマイナスとマイナスをかけるとプラスになるように、いくつもマイナスを重ねていくことにより何を基本に置くべきか、どう暮らしていきたいのか、がだんだん明確になり、プラスの方向が見えてきたような気がします」

 工事着工前の見積もり調整の時期は、建主にとっても私にとっても大変疲れる時期です。しかしながら、そうであればあるほど住まいに対する思いがより明確になっていく時期でもあるのです。人の一生の内で、そう何回も住まいを建て替えることはないでしょう。そして大きな買い物である住まいづくりは、限られた予算をどのように配分して使うのかという判断に迫られる出来事であります。

 私たちの場合は、身近にある自然の恵みを住まいに取り込むことに予算を優先的にあてていくことにしました。前回のコラムで、住まいの中に自然を取り込んでくることが住まいを豊かにしていくということを書きました。我が家=イラスト=に取り込もうとした自然は、日常にあるものが中心で、目を向けさえすれば、いつでもその恵みに接することのできるものでした。太陽からのエネルギーの流れ、天から降りそそぐ雨や風の流れ、土や植物、小動物なども含まれます。楽しみながら、私たちの身の回りにある自然の営みに目を向け、そして自然に対する気配りをしていこうという訳です。

 ひたすら快適で便利で手間のかからない生活を追求するだけではなく、自然の営みに目を向けていくきっかけとなるものを住まいの中にちりばめていこうと考えています。

=建築家・中北幸、イラストも

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