自然に寄りそう/15
風土・歴史・文化とかかわりながら
大学で建築を勉強し始めたころ、設計演習の第1課題は「住宅の設計」でした。建築についての専門的な知識をまだ持たない学生にとって、日常の生活空間である住宅はほかの建築と比べイメージしやすいからだったと思います。今は亡きアメリカの著名な建築家ルイス・カーンは「住宅はすべての建築の始まり(ビギニングス)」と言っています。住宅は建築の原点であるということを多くの大学が教えていると思います。
現存する日本の伝統的な住宅である民家や町家、武家屋敷を見てみますと、それらが建つ土地の風土、歴史、文化と深くかかわりながらつくられています。その土地で手に入る素材で、その風土を考えながら土地の人々によって手間と思いをかけつくられ、伝承されてきたわけです。
それに比べ、現代の住宅の多くは地域の風土や歴史、文化を全く無視しているかのように見えます。規格された画一的な住宅が地域性とはほとんど無関係に建っていく風景が現代の住宅地といえます。
前回のコラムで私の住む兵庫県西宮市での環境学習の話をしました。地域とのつながりに目を向け、地域の中で環境学習をしていくことは、住宅と自然とのつながりを考えていく上で重要ではないかという話でした。
さらに昨年は、建築の原点である住宅を通じて環境学習も行いました。西宮市には「こども環境活動支援協会」というNPO法人があります。その中の「住」という分科会で、市内にある企業の人たちが中心になり行政、NPOの助けを借りながら、小学5年生42人を対象に、家庭科の授業を使って行いました。
「自然を感じる住まいを描こう!」をテーマに、1日目は古代の家の写真などを見せながら、私も子どもたちと話しました。市内にある甲山自然の家ビジターセンター=写真=で行われたのですが、太陽光や地熱を利用した建物で、子どもたちは実際に自然を体感しながらの事例となりました。2日目は学校で、自然を感じる住まいの絵を描いて発表し、私たちがコメントを加え終了する内容でした。
子どもたちの多様な表現に驚きました。模型にする子もいれば、まったく絵にできない子もいましたが、子どもたちは大変すばらしい経験をしているという先生の言葉が印象的でした。自然に対する感性をはぐくんでいくことの大切さを強く思いました。
=建築家、中北幸 関連作品へ