自然に寄りそう/12
気遣う心をはぐくむ間取り



 前回に続いて集合住宅の例を紹介しますが、今回は改修ではなく、新築施工中の内装について設計を依頼された例です。

 戸数80戸ほどの10階建てのファミリー向けの分譲集合住宅でした。最近は自由設計の集合住宅も販売されていますが、外部の建築士がかかわることはかなり特殊なケースです。集合住宅の事業主や施工会社との調整など大変でしたが、集合住宅を考えていく上でいろいろと勉強になったことも事実でした。

 依頼主の家族構成は夫婦と大学生の息子という3人。当初の間取りは床面積81平方メートルの4LDKで、集合住宅ではこうしたレイアウトが売れる条件と、販売担当者は話していました。でも、依頼主は個室の部屋数は2室で構わないので、それぞれをもう少し広くしたいという希望だったため、5畳と6畳の部屋はそれぞれ7畳に広げました。

 玄関横の小部屋は、台所とつなぐように変更。靴やコート類の保管、洗濯・アイロン掛けなどの家事及びさまざまな物品を保管しておく、いわば「つっ込み部屋」のような機能を持たせました。そして、和室も台所と一体とし、可能な限り広がりを持った空間となるようにしました。

 依頼主はこのプランを非常に喜んでくれたのですが、先の担当者いわく「売りにくいプラン」だそうです。購入者から個室への要望が強いのだとは思いますが、小さく間仕切るために、部屋ごとにエアコンが欠かせないエネルギー消費型の住まいになってしまっているのではないかと思います。

 オープンな間取りは、風通しがよく、音の通りもよくなるわけで、家族間のプライバシーを阻害することにもなりかねませんが、人の気配を感じやすくし、家族のコミュニケーションにはいい面もあるように思います。

 開放的な間取りを持つ伝統的な日本の集合住宅である町家と、個室化が進んだ現在の集合住宅。それぞれに良さはありますが、集まって住むということはいずれにせよ、人の気配を感じ、互いに気遣うことが必要だと思います。

 私はこのように人を気遣う心をはぐくむような間取りが重要ではないかと考えています。家族間の気遣いは、隣人との気遣い、そして自然への気遣いとつながっていると思うのです。少し話が飛躍したかもしれませんが、今回の例を通じてそんな思いを強くしています。

=建築家・中北幸、イラストも                関連作品へ



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