自然に寄りそう/1
豊かな空間にしていくために
95年の震災の年、私たち家族4人は6月から約1年半、仮設住宅に住みました=イラストは仮設住宅内の様子。子どもたちの成長などを、折々につづっていた家族新聞「OIDE通信」で、妻はその仮設生活について次のように書きとめています。
「小さな台所での工夫しながらの調理の合間に小窓から六甲の山並みが見え、すぐ目の前にはいつも木々の緑がありました。この風景に私は何度もやすらぎを覚えました。1年を過ごし、緑が、土が、風が、光が、いかに人間の心を癒やす力を持っているか、またそれらを近くに感じることが大切か、実感しました」
私たち家族は震災という自然の猛威によって住まいと最愛の娘を失いました。その一方で、身近な自然によって癒やされ生かされていることを強く感じました。私は仮設住宅の中で早朝さえずる小鳥たちの鳴き声で目覚めていました。小さな空間での家族4人肩を寄せ合うような生活はやはりいろいろな面での疲れが少しずつ出てくることもありました。しかし、この薄い壁の外側にある自然の移ろいを居ながらにして感じる日々であったのです。
京都・大山崎町に国宝、待庵(たいあん)(「妙喜庵」内)という千利休が設計したと言い伝えられる茶室があります。わずか2畳程の広さです。建築を志す者であれば一度は見ておきたいものです。私も二十数年前に訪れたことがあります。わずかな時間でしたが、この小さな空間に身を置いた時、雲の流れによって陽(ひ)ざしが刻々と変わっていく様が伝わってくる体験をしました。居ながらにして自然の移ろいを感じつつ、一服のお茶をいただくという、この小さな空間における人生の中でのひとときの幸せな光景を少しはイメージできたように思います。
少し話が飛躍したかもしれませんが、私にとってはこの2畳程の茶室で体験したことが1年半の仮設住宅での暮らしと重なって思い浮かべられるのです。家族間のプライバシーなど求めようのない小さな仮設住宅での生活の中で、私たち家族はいろんなことを学んだように思います。妻が書きとめています。
「言葉にするのは難しいのですが、この暮らしの中で得た貴重なものをこれからの生活の中でどう反映させていくか、子供たちがそれをどう育てていくか、大きなテーマだと思います」
住まいの中にいかに自然を取り込んでいくか……。このことこそが住まいを豊かな空間にしていく上で最も大切なことではないかと考えています。
=建築家・中北幸、イラストも